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5000円払って、彼女の1時間を買った話。
1 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/22(日) 20:25:37.28 ID:4/8ffDia0

大学生のころ、俺はずいぶんとくだらない生活を送っていたと思う。
仮にも誰かに「学生時代、何して過ごしてた?」と聞かれたら、
俺は「スマホゲーム」とでも答えていたかもしれない。

そんな俺に友達と呼べる相手もいるはずもなく、
一人暮らしは仕送りとアルバイトで生計を立てていた。
学校では比較的まじめに授業を聞いて、家にかえったら迷わずパソコンを開いていたな。

要するに、俺はつまらない人間だったんだ。
自分でもそれはよく分かっていた。俺はこのまま死んでいくんだろうなって。

だけど、そんな男の人生にも、面白い出来事のひとつくらいはあるもんだ。
そうだな。レンタル彼女、とやらを聞いたことある人はどれくらいいるだろうか。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1485084336


2 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/22(日) 20:27:46.80 ID:4/8ffDia0

あれは、たしか夏休み前のことだったな。
俺はその日かなりまいっていたんだ。理由は単純だった。
「悪い。講義ノート貸してくれよ」なんて、
昼休みに軽々しく言ってきた同じ学部の男が原因だったんだ。

俺は、喋ったこともなかったソイツにしぶしぶノートを渡したんだが、
あろうことか返ってきたノートは数ページほど抜け落ちていたわけだ。

大きくため息を吐いて「まいったな」と俺は言った。
やっぱり、お互いのことを知らないという状況は、どうにもまずかったらしい。
教室を出る前に友人たちとゲラゲラ笑うソイツを眺めて、俺はもういちど息を吐いた。



3 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/22(日) 20:29:46.30 ID:4/8ffDia0

帰り道、俺は気分の晴らし方について考えていた。
都合のいいことにアルバイトの給料も入ったばかりだった。
お金に関しては問題ない。あとは使い方次第だ。

カラオケにしろ、映画にしろ、ゲームにしろ、
一人で遊ぶことはいくらでもできる。

だけど、その日の俺は「もっと違うことがしたい」と思っていた。
学生生活の限られた夏休みがもうすぐそこまで迫っている。
俺は誰かに後ろから追いかけられるように、なにかに駆られていたんだろうな。

今までしてこなかったことをしたいと、そう思ったんだ。



4 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/22(日) 20:33:30.91 ID:4/8ffDia0

そんなわけで何をするか困っていた俺の目に、ぐうぜんにも、
“レンタル彼女”とやらの広告が目に止まったわけだ。

iPhoneをいじって広告画面に飛んでみたんだが、
どうにもこれは“お金を払って女の子に彼女になってもらう”という娯楽だそうだ。


《デートプラン》
・ランチデート … ランチを恋人といっしょにたべませんか?
・お出かけデート … ショッピングもOK! どこかへお出かけしましょう!
・オリジナルデート … 自分で決めたデートプランで遊びに行くことが出来ます

《料金体系》
1時間 5000円〜(指名によって料金変更がございます)




5 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/22(日) 20:35:48.82 ID:4/8ffDia0

高いな、と即座に思った。
例えばの話だが、1時間と5000円を与えられたとして、
女の子とデートをすると言う目的のためだけに、それを使ってしまうものか?

「もっと有意義な使い方があるだろう」と考えてみたものの、
それはそれでパッと思いつくこともなかった。

せいぜい美味いものを食べたり、近くのユニクロで服を買ったりさ。
だけどそれが特別したいわけでもないんだよな。
一人でやりたいことなんてお金も時間もいらないんだよ、俺の場合は。

所詮、俺はつまらない人間だったわけだ。まあ今に始まったことではないけどさ。



6 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/22(日) 20:37:26.58 ID:4/8ffDia0

「いいさ、別に。5000円くらい」とぶつくさ言いながら、
俺はサイトの会員登録を済ませ、それからデート申込をしてみた。

だが、ここで問題が発生した。
どうにも、このレンタル彼女というものは、指名するのにもお金が必要になるらしい。

「ふざけんな、ちきしょー」と文句を垂れた俺だったんだが、
隅の方に小さく書かれていた“指名しない場合”という項目に気付いたんだ。


《指名料について》
指名しない場合、指名料の発生はせず、代わりにこちらからお客様のニーズに合わせた“レンタル彼女”を派遣いたします。




7 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/22(日) 20:48:44.98 ID:4/8ffDia0

なるほど。うまいことできている。
俺からすればどんな子が来るのかもわからないまま、
下手をすれば5000円と1時間をドブに捨てる可能性もあるってことだ。

で、まあ、それからさんざん悩んでみたんだが、結局、俺は博打を打つことにした。
つまりは指名せずに、ありのままを受け入れてやろうと思ったんだ。

これまでの俺を考えてみても、あんまりにも理想すぎる女の子がやって来ても、
きっとなんにも話すことが出来ないまま1時間を過ごすことになるだろうからさ。

そういう意味でも、これがいい選択だろって思ったんだ。



8 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/22(日) 20:49:42.88 ID:4/8ffDia0

メールを送ってからは、すこしだけドキドキしてたな。
たとえレンタルであったとしても、1時間だけ自分に彼女が出来るんだからさ。

もちろん、どんな子が来るんだろうっていう期待もあった。
とてつもないモンスターが現れたとしたら、どうすればいいんだろう。
デートで何をすればいいんだろう。何を話したらいいんだろう。

そういう心配をしていた俺の元に一件のメッセージが届いた。
内容はとても簡潔に、場所と時間だけが記されていたんだ。


『15:00に、駅前に来てください』




9 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/22(日) 20:53:03.61 ID:4/8ffDia0

15:00になって、駅前にいったとき、
俺はキョロキョロとあたりを見回していたな。

一応、俺の服装は向こうに伝えてはいるんだが、
相手の姿が分からないと言うのはやっぱり怖いもんだ。
そわそわと落ち着きないそぶりを見せながらも、俺はベンチに座った。
それで5分ほど経って、一人の女が俺の前に現れた。

「さっきメッセージをくれた方に間違いないですか」

その一言で、俺は顔を上げた。



10 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/22(日) 21:03:14.71 ID:4/8ffDia0

簡潔に言えば、その子は、とても白い肌の女の子だった。
顔はずいぶんと整っていたと思う。
髪も長い。無造作に伸ばしているのかもしれない。
女の子は、やや猫背で灰色のカーディガンの袖をまくっていた。

「パンダって呼んでください」と女の子が言った。「はい?」と俺は聞き返した。

「ハンドルネーム、みたいなものです」
「はあ、そうですか。パンダが好きなんですか?」
「本名が嫌いなんです」
「……はあ」

よくわからんな、と俺は思った。



11 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/22(日) 21:05:56.21 ID:4/8ffDia0

「今から、何をするか決めてるんですか」とパンダは言った。
「いや、なにも」と俺が答えるとやけに嫌そうな顔を見せた。

「1時間で出来ることなんて限られてるでしょうに」
どさりと俺の隣に座ると、足を組んでそんなことを言った。

「うさ晴らしに使ったんだよ、いいだろ別に」
「まあ、私はなんでもいいですけど」

パンダは、やけにドライな女だった。
あくまで俺の彼女なはずなのに、恋人であるという実感がさっきからまったく感じられなかった。



12 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/22(日) 21:06:41.58 ID:4/8ffDia0

「手とか繋げたりする?」俺はパンダに尋ねた。
「ああ、接触は別料金ですね。3000円かかりますよ」

そう言って、右手を開いてこちらに差し出した。

「……無料で出来ることは?」
「さあ、話すことくらいですかね」

俺は頭を抱えた。「まいったな」と思った。



13 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/22(日) 21:07:31.68 ID:4/8ffDia0
いったん、ここまでです。


14 名前:SS速報VIPがお送りします [sage] 投稿日:2017/01/22(日) 21:32:31.66 ID:x7iEtg86O
これは期待


15 名前:SS速報VIPがお送りします [sage] 投稿日:2017/01/22(日) 21:33:07.77 ID:cqfYVNBro
他にも書いたのある?


19 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/29(日) 23:26:48.35 ID:vLYglEer0
>>15
他にも書いてます。二次創作ばかりですけどね。


20 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/29(日) 23:27:21.95 ID:vLYglEer0

彼女を1時間レンタルしたのはいいが、
どうにもお金がなければ触れることすらできないらしい。
呼んでからそれに気づいた俺を、誰でもいいから大バカ者と言ってくれ。

「どこかに行きますか?」とパンダが言った。
「いや、移動してる時間がない」
腕時計を見たらもう10分ほど経っていた。

「それじゃあ、なにか面白い話をしてください」
パンダは足を伸ばして、こっちを見た。



21 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/29(日) 23:43:31.01 ID:vLYglEer0

少しだけ考えて「ないな」と俺は言った。
「つまらない人ですね」とパンダは眉を顰めていた。

そのときほど、自分がくだらない人間だと思ったことはなかったな。
まあ、そんな生き方をしてきたんだから仕方ないんだけどさ。

それからは、俺達はだまってベンチに座って、駅前の噴水を眺めていたんだ。
で、しばらくぼーっと何にも考えないでいた俺は、
知らない女と二人でこうして一緒にいることに、無性に笑いそうになった。

「俺はこんなところでなにをやってんだろう」って思ったな。



22 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/30(月) 00:01:31.53 ID:9DNCeRmv0

突然、パンダが「あのですね」と言った。
遅れて俺は「なに?」と答えた。

「本来ならば、相手のことを好きになるっていう過程には、たくさんの時間が必要なんですよ」

はあ、と俺は気の抜けた返事をした。

「それが、メール一通で恋人同士になるなんて、なんだか不思議な気分になりますね」

少しだけ考えて俺はあたまをかいた。「俺達って、恋人だったか?」

「この時間だけは、私はあなたの彼女ですよ」パンダはさらりと答えた。



23 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/30(月) 00:03:35.93 ID:9DNCeRmv0

そこからは、なぜだかパンダと話せるようになっていた。
ぽつぽつと会話が進むごとに、俺はパンダに心を開き始めていた。

「恋人になったら、なにをするんだろうな」と俺は問いかけてみた。

「キスとかしますよね。ほら、あんな風に」
パンダが指さした先には、二人の男女が抱き合って唇を重ねていた。

「色んな人が見ている中で、あんなこと出来るんだな」

「そういうのが楽しいんですよ、きっと」

俺はパンダの方を見た。彼女はじっとその二人を眺めていた。



25 名前:SS速報VIPがお送りします [sage] 投稿日:2017/01/30(月) 22:45:20.81 ID:b0TOUXOXP
10年位前の、陰のあるネット社会って感じがいい


26 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/31(火) 00:50:38.62 ID:5dJqlg9Q0

「常識を考えたら、家でやる方がいいんじゃないのか?」と俺は言った。

「そういうことを言うから、つまらない人間になるんです」

彼女の言葉に、ぐっと息を詰まらせた。

「あなたは常識だとかそういうものに、とらわれすぎなんですよ」

パンダはまだ向こうの二人を見ていた。

「人生の楽しみ方を教えてくれる人がいなかったんだよ」と俺は文句を言った。

そのときパンダはようやくこっちに顔をむけて、いちどだけ溜息をはいた。
「それじゃあ、今から私とキスをしますか?」



27 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/31(火) 00:51:53.92 ID:5dJqlg9Q0

なに言ってんだ、という声は喉元でとまった。

代わりに俺は「冗談だろ?」と言った。

彼女は三本指を突き出して「追加料金をもらえれば」と答えた。

「なら、やめとく」俺は首を振った。「なんか、負けた気分になる」



28 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/31(火) 01:10:45.32 ID:5dJqlg9Q0

「そうですか。それは残念です」と言うと、彼女はすっとベンチから立ち上がった。

俺が見上げると、パンダは「時間なので帰ります」と言った。

なんだかんだで、ちょうど一時間ほど経っていたようだった。
彼女となにを話したのかなんて、あまり覚えてはいなかったけれど、
どうしてか俺は後ろ髪をひかれた気分を味わっていた。

それから、喉もカラカラに乾いていた。



29 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/31(火) 01:28:13.23 ID:5dJqlg9Q0

「なあ」と俺は言った。

「なんですか」彼女は振り返ってこっちを見た。

「いつもこんなふうに誰かと話しているのか?」

パンダは不思議そうな目つきで俺を眺めていた。
「私、今日がはじめての仕事でしたよ」



30 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/31(火) 01:29:38.57 ID:5dJqlg9Q0

俺は「そっか」なんて適当な相槌を打った。

「なにか問題でもありましたか」彼女は俺に訊いた。

問題ばかりだったような気もするが、
それらをぐっと飲み込んで、「楽しかった」と俺は言った。

パンダはちょっとだけ驚いた素振りを見せて、
そのあとに「良かったです」と笑っていた。

彼女の笑う顔を今日初めて見たけれど、
どうにも悪い気はしなかった。



31 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/01/31(火) 01:36:14.99 ID:5dJqlg9Q0
あともうすこしで終わるはず…。
あしたまた続きを書きます。



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