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妖狐姫「わらわの座椅子となるのじゃ」
30 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:09:07.63 ID:bQ1VTJGW0
男「うぇ!?」

てんこ「座椅子…?男殿もそのような妙な条件を飲み込んでここに来たのか?」

男(さすがにそれは聞いてないぞ!?)

妖狐姫「今この街が危機に瀕しておるのはわらわに主としての風格が欠けておるからじゃ。その風格さえあれば皆もわらわを主として認め、奴もわらわの威厳に敬意を表し、買収をやめるに違いない」

妖狐姫「そのために必要なのはやはり専用の座椅子役じゃ!わらわに最も近い存在…うにゅらよりも深い忠誠を誓う者が必要なのじゃ!」

てんこ「そこで座椅子役を結婚相手に…ということですか…」

くぅこ「めちゃくちゃでごじゃるな…」

男「う、うん…」

自分の考えを熱く語る妖狐姫の話を皆があんぐり口で聞く中、俺もそう思った。


31 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:10:27.36 ID:bQ1VTJGW0
てんこ「その座椅子役!この私が引き受けますっ!ですからこのような別世界の凡人などと結婚するのだけはやめましょう!」

そういう問題なのか!?
ってかさっきはフォローしてくれたのについに本音言っちゃったよこの人!

妖狐姫「ええい!うるさいうるさい!うるさいぞ!てんことくぅこは今すぐ出て行くのじゃあ!」

くぅこ「しょ…しょーちでごじゃるよ…」

てんこ「ひ、ひめさまぁ…」

くぅこ「てんこ殿、行くでごじゃるよ。どうせ主様はすぐ飽きるでごじゃる」

てんこ「くぅこぉ!貴様は悔しくないのか!?離せ!はなせぇ〜!」

くぅこがてんこさんをズルズルと引きずっていき、てんこさんの嘆く声も襖がパタンッと閉じる音と共に聞こえなくなった。


32 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:11:01.06 ID:bQ1VTJGW0
男「え、えぇ…なぁ…あれ、本当によかったのか?」

妖狐姫「てんこは心配性じゃからな…『過保護』というやつじゃ」

妖狐姫「心配せんでもわらわももう大人じゃ。父上に甘えていた頃のわらわとは違うのじゃ…それがあやつは分かっておらん」


33 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:12:41.43 ID:bQ1VTJGW0
妖狐姫はやれやれと軽くため息をはいてから襖から俺の方へ視線を戻した。

妖狐姫「ほれ、座椅子。こちらへ来い」

男(俺の意思は関係なく、もう俺は座椅子決定なんだな)

もし俺が立派な真人間で、あっちの世界で充実した人生を送っていたなら…「ふざけるな帰らせろ」とでも言っていただろう。

男(そのとき妖狐姫はどんな反応をしたんだろ…)

なんて考えながら手招きする彼女の方へ歩み寄る…真人間じゃないからな。

妖狐姫「ここに胡座をかくのじゃ」

妖狐姫は立ち上がるとさっきまで自分が座っていた座布団を指差してそう言った。


34 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:13:41.39 ID:bQ1VTJGW0
男「お、おう」

俺も言われた通り座布団に胡座をかく。
さらにその上に妖狐姫が座り込んだ。

妖狐姫「うむうむ。よいぞよいぞ!思った通りじゃ」

妖狐姫「うにゅと初めて出会ったとき、確信したのじゃ。うにゅはわらわにぴったりの座椅子になるとな」

男(出会ったときって…倒れかけた妖狐姫を受け止めたときか)

男「あー…で、俺はこのまま何もせずにずっと座椅子になってたらいいのか?」

見た目通り妖狐姫は軽かった。
よほど長時間じゃない限りは足はしんどくなさそうだが…

男(手のやり場に困る…)

俺は手を後ろに着いた状態となっていた。


35 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:14:19.40 ID:bQ1VTJGW0
…本音を言うとだ

男(めっちゃもふもふしたい)

考えてもみろ!
今俺に座っているのはもふもふ耳にもふもふ尻尾の女の子だぞ!

やっぱりお姫様だからかめっちゃいい匂いするし!

男(でも安易に触って妖狐姫が叫びでもすれば多分てんこさんとくぅこが飛んできて俺を一瞬で始末しそうだ)

この衝動を抑え続けろというのならそこだけは軽く拷問だった。


36 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:15:02.61 ID:bQ1VTJGW0
妖狐姫「何を言う。そのようなつまらんものでよいなら最高級の座椅子をてんこに頼むだけで事足りておる」

妖狐姫「わらわを愛でるのじゃ」

男「え?」

妖狐姫「このわらわの美しい髪と尾を、この世で最も愛しいものに捧げる愛を持って撫でるのじゃ」

妖狐姫「そのための婚姻関係というわけじゃ」

妖狐姫「…できぬか?」

妖狐姫は物恋しそうな視線をこちらにちらりと送った。

男「っ!」

男(ここは天国か…)

その日、俺は極楽浄土を信じた。
…あっちの世界で積んだのは限りなく悪徳に近いが。


37 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:15:42.17 ID:bQ1VTJGW0
男「い、いいぞ」

震える手で、ふわりと彼女の頭に手を置いた。

妖狐姫「んっ…」

さらさらとした長くて綺麗な金髪をゆっくりと撫で下ろす。

妖狐姫「なっ…なんだかもどかしぃぞ…うにゅならもっと上手く撫でられるはずじゃ」

男(そんなこと言ったって…)

仮にも姫様を撫でているのだ。
緊張でいつものようにはいかない。

男(ん…?)

『いつものように』ってなんだ?
俺はいつも同じようなことをしていたのか?


38 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:16:19.65 ID:bQ1VTJGW0
男(そうか)

そこで自分がいつも飼い猫を同じようにして撫でていたのを思い出した。
あの世界での、俺の唯一の存在価値…だったもの…

男(出会ったときのあの一瞬で、妖狐姫はそれを見抜いていたのか…?)

自分の飼い猫を愛でるように…
優しく、繊細に…

妖狐姫「ふぁ…んっ…」

妖狐姫「んにゅ…よいぞ…実に心地よぃ…」

どうやら気に入ってくれたようだ。


39 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:16:56.62 ID:bQ1VTJGW0
妖狐姫「んぎゅっ」

男「わっ…どうしたんだよ…」

妖狐姫は振り返ると俺の背中に腕を回して抱きついてきた。

妖狐姫「やはりわらわは間違うてなかった」

眩しい笑顔で俺にくっつく彼女の頭の上にはハートマークすら見えた。

男(あ…)

『父上に甘えていた頃のわらわとは違うのじゃ…』

男(あれは嘘だな)

彼女はまだまだ甘えたがりで……
父のように自分が甘えられる存在が欲しかったのだろう。


40 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:17:42.30 ID:bQ1VTJGW0
妖狐姫「座椅子…これから…よろしくたのむ…ぞ…」

妖狐姫「むにゃ…すぅすぅ…」

男(寝ちゃったか)

おそらく沢山走って疲れていたのだろう。

妖狐姫「ちちうえ…むにゃ…」

男「…やっぱりそうか」

男「しっかし…いい寝顔してるな」

今は亡き飼い猫の寝顔と重ね合わせながら暫く彼女の頭を撫でていた。


41 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:18:34.61 ID:bQ1VTJGW0
男(さすがにキツくなってきたな…)

男(あれ?これ俺動けないんじゃ…)

困った…。
幸せそうな妖狐姫の寝顔を見ると今起こすのは可哀想だ。

てんこ「寝てしまいましたか」

どうしようかと考えているとてんこさんが入ってきた。

男「あー、はい」

てんこ「そろそろ夕食の準備が整いそうなので呼びにきたのですが」


42 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:19:20.32 ID:bQ1VTJGW0
くぅこ「嘘でごじゃるよ。てんこ殿は襖の隙間からずっとお二人を見ていたでごじゃる」

男「わっ!お前一体どっから…」

天井裏にでも隠れていたのかくぅこがしゅたりと降ってきた。

てんこ「く、くぅこぉ〜!だって姫様が私たちの知らぬ殿方と二人きりだぞ!姫様が変なことされないか心配にもなるだろう!」

くぅこ「そんなに心配せずとも、もしそのようなことがあればせっしゃが男殿の首をはねていたでごじゃるよ」

背中に背負った小刀を光らせてくぅこが鋭い目で俺を睨む。

男「ヒェッ…」

どうやら下手に妖狐姫に触れてはいけないという俺の考えは正しかったようだ。


43 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:21:21.60 ID:bQ1VTJGW0
てんこ「一つ聞いてもよろしいか?」

男「はい?」

てんこ「男殿は…元の世界に帰りたいとは思わないのか?」

てんこ「…とは言っても転移鳥居を開く妖術が使えるのは主の血筋を持つ者だけだからな。姫様に相談せんことには帰れんが」

男「…今は別に帰りたいとは思いません」

あの世界の俺の存在価値はもうない。
あの世界の俺はもう死んでいるも同然だった。

ならまだ誰かに必要とされているこの世界で生きていくのもありだと思った。

愛でるべき存在を失ってしまった俺…
甘えたい存在を失ってしまった妖狐姫…

俺たちが出会ったことが、俺は少しだけ偶然じゃない気がした。


44 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:22:25.96 ID:bQ1VTJGW0
くぅこ「それは主様との婚姻を受け入れるということになるでごじゃるよ」

てんこ「おいくぅこ!私はまだそのことは認めてないぞ!」

くぅこ「それはせっしゃも同意でごじゃるがまずは当事者にその気があるかでごじゃる」

男「俺は…」

男「妖狐姫が必要としてくれている限りは、ここにいたいと思っています」

くぅこ「男殿…さては幼女好きでごじゃるか?」

くぅこの蔑んだ瞳が重くのしかかる。

男「いやいやいやそんなんじゃないから!」

てんこ「むむむ…」

てんこさんも俺の答えにあまり納得がいかないようだ。

男「それにさ!転移鳥居?だっけ?とにかくそれを開けられるのは妖狐姫だけなんだろ?」

男「妖狐姫も俺に飽きたら鳥居開くだろ!そのときは俺も大人しく帰る。それでいいだろ?」

男「だからてんこさんもくぅこもそんな目で俺を見ないでくれ…ってかくぅこは刃物もしまって!怖いって怖いから!」

てんこ「分かった」

くぅこ「見事な命乞いでごじゃるよ。しょーち」

とりあえず二人とも納得してくれたようだ。

男(ふぅ…)


45 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:23:25.71 ID:bQ1VTJGW0

…………

みんなの夕食の席に同席した。
美味しそうな料理が目の前に並ぶ。

男「いいんですか?こんな美味しそうなご馳走…」

妖狐姫「当然じゃ。座椅子はわらわの家系の一人じゃからな」

てんこ「ここの自慢の料理人が腕によりをかけて作っているものだ。味わっていただくのだぞ」

男「い、いただきます…」

まずは油揚げがツヤツヤと光るいなり寿司に手を伸ばした。

男「あむっ…」

男「!」

口に入れた瞬間じゅわりとコクのある甘さが広がる。
あとからくる酢飯の程よい酸味がちょうどいいところであげの油味を断ち切り、口の中にむつごさを残さない。

今好きな食べものはなんですかと聞かれたら俺は「この屋敷のいなり寿司です」と即答するだろう。


46 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:25:04.12 ID:bQ1VTJGW0
妖狐姫「どうじゃ?」

男「最高だ。今まで食べてきたいなり寿司が別の食べものだったのかと思うくらい」

妖狐姫「そうじゃろそうじゃろう?この城の料理は絶品じゃからな。わらわも鼻が高いわ」

くぅこ「この料理が食べられるだけでここに雇われて良かったと感じるでごじゃるよ」

妖狐姫「ほう?くぅこ、わらわの護衛は辛いものか?」

くぅこ「や、やめて欲しいでごじゃるよ。勿論主様を護るという大役を任せてもらって光栄にでごじゃる。辛いなどとはこれっぽっちも感じてないでごじゃる」

妖狐姫「ふふ、まあ冗談はさておき…明日は隣街に文と招待状を出そう。わらわに配偶者が出来たことを報告するのじゃ」

てんこ「招待状とは…?」


47 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:26:50.40 ID:bQ1VTJGW0
妖狐姫「もちろんわらわと座椅子の祝言のじゃ。奴に文の内容が嘘ではないことを教えてやるのじゃ」

妖狐姫「本当は宴など明日にでも開きたいところじゃが…折角のわらわの晴れ舞台、大勢の者に祝ってもらおう。てんこ、集客の手配を頼むぞ」

てんこ「は、はぁ…」

てんこさんは困った顔をしていた。
俺も…少しだけだが困惑していた。

予想でしかないが俺たちの考えていることは恐らく同じだ。

男(人呼んじゃったら引き返せなくなるんじゃ…)


48 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:27:38.20 ID:bQ1VTJGW0
いや、もはや元の世界に未練がない俺はどうでもいいのだが、てんこさんにとっては冷や汗ものだろう。

大勢の人を呼んでおいて、もし妖狐姫が俺に飽きて転移鳥居を開きでもしたら大変だ。

経済的な面だけでなく民の信頼まで失ってしまえば本当にこの街は終わりだ。

くぅこも青ざめていた。
次の就職場所を考え始めるサラリーマンの顔はあんな感じか。


49 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:28:19.05 ID:bQ1VTJGW0
妖狐姫「ふぅ〜!今日もご馳走であった。さて、明日は朝一番に文を書かなければな。今日はもう寝るとしよう」

妖狐姫「てんこ、座椅子を寝床に案内してやるのじゃ」

てんこ「はい…」

妖狐姫「本当はわらわと同じ部屋でもよいのじゃが…てんこがうるさくてのぅ…」

てんこ「当然ですっ!」


50 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:29:22.29 ID:bQ1VTJGW0
…………

てんこ「男殿」

男「なんですか?」

夜、風呂を上がった後、長い縁側をてんこさんに案内してもらいながら歩いていた。

てんこ「その、なんだ。私は貴様がすごく羨ましい」

男「え、ああ…すみません…まぁ…分かります…」

自分が長い間大切にしてきた人がポッと出の異性とくっつこうというのだ。
同性だろうがどんな身分だろうが俺がその立場なら発狂もんだ。


51 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:30:52.08 ID:bQ1VTJGW0
てんこ「失礼な話だが、本音を言えばすぐ飽きられてしまえばいいと思っていたほどだ」

男「今までも同じようなことが…?」

てんこ「いや、さすがに配偶者候補を異世界から拾おうなどというめちゃくちゃはこれが初めてだが…飽き性で好奇心旺盛な姫様は昔から転移鳥居をくぐるのが大好きな方で…」

てんこ「異世界の綺麗な花を摘んできたりとかはまだ良かったのですが、得体の知れない生き物を愛らしいと言って拾ってきたり…」

てんこ「今回の一件も隣街の主様との見合いが嫌で転移鳥居に逃げ出したのが始まりだ」

男「それは大変ですね…同情しますよ」


52 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:32:15.76 ID:bQ1VTJGW0
てんこ「とにかくあの方は縛られることを嫌い、新しいもの好きなところがある。下手をすれば貴様も三日と経たずに捨てられるかもしれん」

てんこ「だが、この件はもうすでにこの屋敷だけの話ではない。大勢の人が関わるとなれば話は別だ」

てんこ「頼む!男殿…宴会が無事終了するまでは姫様に飽きられないようにしてくれっ!」

てんこさんに深々と頭を下げられた。

男「やめてくださいよそんなっ…!」

てんこ「私だけの力ではどうにもならないことだ…男殿に頑張ってもらうしかないんだ…」

男「は、はい…頑張ります…」

それしか言えなかった。

てんこ「…頼んだぞ。部屋はこの右だ。それではな…」


53 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:32:59.26 ID:bQ1VTJGW0
…………

部屋の中で一人、俺は中々眠れないでいた。

いや、新しい空間に落ち着けないというのもあるが

何よりも…

男(腹いてぇ)

胃がキリキリとして凄まじい。
別に食あたりとかではないと思う。

これはストレスからきているものだろう。

今までニートだった俺は仕事などからくるプレッシャーや責任感とは無縁な生活を送ってきた。

それが一気にやばい使命を任されてしまった。

男(そりゃあ…飽きられたら俺は元の世界に放られるだけだから…俺が飽きられた後のこの街の事情とか知らんぷりできるけど)

絶望するてんこさんやくぅこの顔を思うとそこまで下衆にはなれない。


54 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:34:03.22 ID:bQ1VTJGW0
男「うぅ…」

くぅこ「苦しそうでごじゃるな。料理が絶品すぎて食べ過ぎたでごじゃるか?」

男「うわっ!」

後ろから急に声がして驚いて振り向くとそこにはくぅこが立っていた。

男「おまっ…なんでここに…」

くぅこ「なんでも何もここはせっしゃが貸してもらっている部屋でごじゃるよ」

男「え、そうなのか…なんか悪いな」

くぅこ「まあせっしゃは仕事柄この部屋には殆ど居ないから大丈夫でごじゃる」

男「まだ寝ないのか?もう結構遅いぞ?」

くぅこ「何を言うでごじゃるか。忍の仕事は夜が本業…それも護衛仕事は主人が寝ているときが重要でごじゃる」

男「それもそうか…」

男(こんな妖狐姫と大して歳が変わらない子も頑張って働いてるのに…俺はあっちで何やってたんだろうな…)


55 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:34:57.06 ID:bQ1VTJGW0
くぅこ「腹痛ならこれを飲むといいでごじゃる。水もあるでごじゃるよ」

くぅこが懐から薬と水を出して渡してくれた。

男「ありがとう…ごくっ…」

男「にっげぇ…」

あまりの苦さに舌を出してえずいた。

くぅこ「その代わり良く効くでごじゃる」

男「まさに『良薬は口に苦し』ってか…」

くぅこ「なんでごじゃるかそれは」

男「ああ、俺の世界でのことわざだよ」

くぅこ「なるほど。的を射た言葉でごじゃるな。何にせよ明日からは食べ過ぎぬよう注意するでごじゃるよ」


56 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:36:03.35 ID:bQ1VTJGW0
男「いや、実はな。食べ過ぎたわけじゃなくて…自分に課せらてた立場がヤバすぎて責任感に押しつぶされそうなんだ」

くぅこ「…そういうときはあまり深く考えすぎない方がいいでごじゃる」

さすが歳にそぐわない仕事を任された天才少女。肝が据わっている。

男「無理だって。だって街の存続がかかってるんだぞ?」

くぅこ「主様は出来ない者に出来ない仕事は任せぬ方でごじゃるよ」

男「いや、つってもな〜」

くぅこ「せっしゃも最初はそうだったでごじゃる。師匠様から一人前の印を貰って直ぐに主様に拾われ、不安で不安でたまらない日々だったでごじゃるよ」

くぅこ「だからある日、本当にせっしゃなんかで良かったでごじゃるのかと主様に聞いたら『うにゅはわらわの目が節穴だと言いたいのか』と怒られてしまったでごじゃる」

くぅこ「だから男殿も胸を張るでごじゃるよ。座椅子をしているときの男殿はその道の達人に見えたでごじゃる」


57 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:37:08.84 ID:bQ1VTJGW0
男「座椅子の達人…?ははっ、なんだそりゃ」

くぅこ「あちらの世界で座椅子の道を極めたのではないのでごじゃるか?」

男「…ある意味そうなのかもな。妖狐姫の目の良さを保証するためにもそういうことにしておくよ」

男(今日のあんな感じでもあいつは満足してくれたし…そうか…深く考えずにいつも通りでいいんだ)

男(飽き性だってんなら、飽きられないくらい生活の一部に染み込ませてやればいい)

『呼吸することが飽きた』なんていう人間はいないだろう。
言うだけなら簡単だが、大半の奴はそれをいいながら呼吸している。

それが本当に嫌なら自殺するしかない。

男(そんくらいすげー座椅子になってやる)


58 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:37:45.38 ID:bQ1VTJGW0
男「くぅこ、ありがとな。元気出たよ」

くぅこ「力になれたなら良かったでごじゃるよ。せっしゃは主様の部屋に戻るでごじゃるよ」

そう言うとくぅこは一瞬にして闇に溶けた。
これも妖術の一種なのだろうか。

男「よし」

憂鬱の雲も晴れ、薬も効いてきたのか腹痛はすっかりなくなっていた。
これで眠れる。

俺は仰向けの状態で天井に手のひらをかざしてからゆっくりと、だが強く手を握った。

これは神様が俺にくれたチャンスだ。今までの駄目だった自分は今日で終わりにしよう。明日からは自分のできることは全力でやる、そんな俺になろう。

確かな誓いを胸に、俺は眠りについた。


59 名前: ◆hs5MwVGbLE [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 02:38:49.38 ID:bQ1VTJGW0
なうろうでぃんぐ…

(-ω-)


60 名前:SS速報VIPがお送りします [sage] 投稿日:2017/03/10(金) 08:24:35.80 ID:9dbzT/w6o
むつごさってどういう意味かと思ったら方言なのね


61 名前: ◆hs5MwVGbLE [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 18:03:41.24 ID:bQ1VTJGW0
>>60

普通に書いちゃいました

「しつこい」みたいな感じだと思います



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