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妖狐姫「わらわの座椅子となるのじゃ」
62 名前: ◆hs5MwVGbLE [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 18:05:39.10 ID:bQ1VTJGW0
…………

てんこ「す、すごい…」

くぅこ「主様が骨抜きにされてるでごじゃるよ…」

妖狐姫「はふぅ…」

翌日の昼、朝から堅苦しい文を書いて疲れたと言う妖狐姫を俺は膝の上に乗せていた。

男「気に入っていただけたようで何より」

妖狐姫「んっ…あぁ…おい…撫でる手を止めるでない…揺籠から落とされた赤子の気分になる…」

男「そこまでかよ」

実は俺、向こうの世界でも頑張って勉強すればマッサージ師とかになれたのでは?

そんな錯覚すら覚える。


63 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 18:06:55.13 ID:bQ1VTJGW0
くぅこ「やっ、やはりその道の達人でごじゃったか…」

てんこ「男殿、そうなのか?」

男「いや、向こうの世界にペットがいてそいつをよくこうして撫でていただけですよ」

てんこ「ぺっと…?」

くぅこ「む、聞いたことがあるでごじゃるよ。確か『ペット』とはどこかの世界の言葉で奴隷の隠語だと…」

てんこ「ど、奴隷だとっ…!?」

男「いやいやいや!それどこ情報!?違うから!いや…一部の人たちにとっては違くないかもしれないけど…」

てんこ「違わないのか!?」

男「いや少なくとも俺が言ってる意味は違うから!」


64 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 18:07:40.59 ID:bQ1VTJGW0
くぅこ「ん〜…?はて、何処で耳にした話でごじゃったか…」

男(マジで勘弁してくれよくぅこ!妖狐姫に自分が奴隷と同じ扱いを受けてるって思われたらどうすんだよ!)

ビクつきながら恐る恐る下を見る。

妖狐姫「何じゃと…?」

妖狐姫は少ししかめた顔でこちらを見ていた。

男(やばいやばい!なんか言わないと!)

なんとかしてフォローしたいが言葉が思いつかない。
絶対絶命だ。


65 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 18:13:28.26 ID:bQ1VTJGW0
妖狐姫「座椅子の世界の奴隷は随分といい身分じゃのう…こんな素晴らしい施しが受けられるとは…それは本当に奴隷なのか?」

どうやら別の方向に捉えてくれたらしい。
危なかった。

男(よかったぁ…)

この日はこの一件以外は特に何もなく終わることができた。

ちなみに祝言は一週間後らしい。

早すぎないか?

祝言まで、あと七日…


66 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 18:14:31.92 ID:bQ1VTJGW0
…………

男「くぅ〜こぉ!」

くぅこ「せっしゃの失態であった。許して欲しいでごじゃる」

みんなが寝静まったころ、俺とくぅこはまた共通の寝室で話していた。

てんこさんにはこの街や屋敷のことを中心に教えて貰っているが、くぅこからは主にこの世界のことについて教えて貰っている。

くぅこ「しかし今日の主様を見てせっしゃ少し男殿が恐ろしくも感じているでごじゃるよ」

男「恐ろしい?何が?」

くぅこ「あれは何らかの妖術を主様に使っているわけではないでごじゃるか?そうとしか考えられぬでごじゃるよ」

男「妖術なんて…そんな魔法みたいなもん使えやしないよ」

男(使えたら多分この世界にはいないって)

中学生のころはよく自分がそんな類のものを使って無双する妄想をしたものだが…


67 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 18:15:13.17 ID:bQ1VTJGW0
くぅこ「ほ、本当でごじゃるか…?」

男「怯えすぎだろ…」

くぅこ「せ、せっしゃも男殿の膝に乗せて貰っても構わないでごじゃるか…?」

男「んえ?」

いきなりだな…

くぅこ「世の中には多種多様な相手を無力化する術が存在しているでごじゃるよ。そして忍者たる者それら全てに屈服してはならぬ。それが忍ということでごじゃるよ」

男「修行の一環ってことね」

男(他の奴を乗せたなんて言ったら妖狐姫のやつ怒るかな…?一回くらいいいか)

俺は布団から起き上がるとくぅこの前で胡座をかいた。


68 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 18:16:12.25 ID:bQ1VTJGW0
男「来いよ」

俺が膝をぽんぽんと叩くとくぅこは警戒しながらもそっとお尻を乗せた。

くぅこ「むぅ…?ただの座椅子でごじゃるな」

男「そりゃあまぁ…こうしてるだけならな。これなら高級座椅子の方がいいって妖狐姫にも言われたよ」

くぅこ「座椅子術にはこれといった仕掛けはなし…と…」

男(座椅子術…?)

こうしてまたこの世に新たな妖術が生まれた。

くぅこ「となると…骨抜きの仕掛けはやはりあの手に…」

くぅこ「男殿、頼むでごじゃるよ」

男「え、いいのか?」

くぅこ「その手に秘めたる力を受けなければ修行の意味がないでごじゃるよ」

そんな大層なものではないが…


69 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 18:16:59.89 ID:bQ1VTJGW0
男「あ、ああ分かった」

男(いや…しかし…)

くぅこをペットのように可愛がる…という実感がイマイチ湧いてこない。
確かにくぅこも可愛いらしい可憐な少女だが…
なんか、そう。可愛いって言っても、妹みたいな感じ…

くぅこ「…どうしたでごじゃるか?」

男「その、どうやって可愛がったらいいか分からない」

くぅこ「可愛がる?どうして可愛がる必要があるでごじゃるか?」

男「それくらいの愛情がないと駄目なんだよ」

仕事感覚でこれができない。
やはり俺にマッサージ師は無理だったな。


70 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 18:17:42.81 ID:bQ1VTJGW0
くぅこ「しょ…しょの…やはり汚れ仕事をしている身に魅力はないということでごじゃろうか…」

くぅこは少ししゅんとしてしまった。

男(どんなに影の仕事をしていても、やっぱり女の子なんだな)

男「そんなことないって。くぅこは可愛いよ」

左腕で彼女を抱き寄せ、右手で彼女の頭を撫でた。

くぅこ「ふ、ふぇぇ…!?そっ、それも話術の一つでごじゃるか?」

男「口説き文句なんかじゃないよ。本当にそう思っただけ」

男(女の子にいちいち細かいダメだしできるほど目も肥えてねーしな…)

くぅこ「うぅ…」

暗い部屋の中で灯りがともったかのようにくぅこは顔を真っ赤にして首をすくめた。


71 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 18:18:18.40 ID:bQ1VTJGW0
くぅこ「男殿の手…おっきいでごじゃるな…」

男「よく言われる」

くぅこ「…少しばかり師匠様を思い出したでごじゃるよ」

男「師匠様にもこうやって頭撫でてもらったの?」

くぅこ「うむ…」

男(ん?)

ふと下を見ると彼女の銀色の尻尾が彼女の背と俺の腹の間をメトロノームのように動いていた。

男「頭撫でてもらうの、好きだったんだな」

くぅこ「…もうそのようなことに喜びを感じる歳ではないでごじゃるがな」

男(そんなに尻尾振って言われても説得力ないけどな)

彼女のためにも口には出さないでおいたが。


72 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 18:19:17.76 ID:bQ1VTJGW0
男「そういえばさ、くぅこってどんな妖術が使えるんだ?」

くぅこ「一番得意なのはやはり基本妖術の『変化』でごじゃるよ」

男「変化か。確かに狐っぽいな」

男「俺の世界での狐はよくいろんなものに化けるのが得意だって言われてたよ」

くぅこ「そうでごじゃるか。もしかしたら過去に転移鳥居をくぐった者が男殿の世界で記録されているのかもしれぬな」

男(なるほど…龍とかその辺の架空の生き物も、もしかしたらどっかの世界からの流れものなのかもな)


73 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 18:20:03.39 ID:bQ1VTJGW0
男「ちょっとやってみてくれよ」

くぅこ「それくらいならお安い御用でごじゃるよ」

くぅこは両手をぴったり合わせると白い煙を上げた。

男「けほっ…けほっ…」

至近距離で煙が出たため思わず目を瞑ってむせてしまった。

煙が晴れ目を開けるとそこには…

男「妖狐姫!?」

くぅこ「座椅子よ、わらわを愛でるのじゃ」

男「すっげー…声まで…」

くぅこ「どうでごじゃるか?大したものでごじゃろう?」


74 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 18:21:19.76 ID:bQ1VTJGW0
男「この姿ならいつもみたいにできるぞ」

くぅこ「ふぇっ!?ふあぁっ!?」

妖狐姫にやっているように髪と尻尾を同時に撫でてやるとくぅこは忍者にあるまじき大きくて甲高い声を上げた。

男「うぇ!?ごめっ!痛かったか!?」

くぅこ「はぁ…はぁ…」

集中力が途切れてしまったのか、くぅこはまた白い煙を出して元の姿に戻ってしまった。

くぅこ「しゅっ、しゅまにゅでごじゃりゅ…痛くはなかったでごじゃるが、忍者は微量の空気変化でも感じ取るために全身が敏感でごじゃるゆえ…」

男「ごめん。知らなかった」

くぅこ「これしきのものが耐えられぬとは…せっしゃもまだまだでごじゃるな…」

くぅこは立ち上がるとこちらをむいて軽く頭を下げた。

くぅこ「男殿、また修行を頼んでもよいでごじゃるか?」


75 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 18:22:31.64 ID:bQ1VTJGW0
男「まあ、それはいいんだけど…大丈夫なのか?」

くぅこ「これくらい耐えられぬようでは忍失格でごじゃるよ」

男「いやそうじゃなくて、俺一応妖狐姫専用の座椅子ってことになってるんだけど…」

くぅこ「む…」

一瞬マズそうに口を閉じたままごにょごにょとしたくぅこだったが、開き直ったかのような顔をすると人差し指を唇の前に立てて小声でつぶやいた。

くぅこ「…主様には内緒にしておいて欲しいでごじゃるよ」

男「はいはい…」

それでいいのかよと少し呆れもしたが『女の子を膝椅子の上に乗せる修行』と文面だけみた役得感もありそれで飲み込むことにした。

くぅこ「…男殿、顔が笑っているでごじゃるよ。何を考えているでごじゃるか?」

くぅこは両肩を両手で抱くと少し身を引いて怪訝な視線を送ってきた。

男(やべ…顔に出てた?)

男「なんでもないよ。おやすみ…」

俺は彼女から顔を逃すかのように後ろを向くと掛け布団に潜り込んだ。

くぅこ「くくっ…おやすみなさいでごじゃるよ」

その声を最後まで聞き終えると部屋からくぅこの気配は無くなった。

男(あいつ最後ちょっと笑ってた…?)

男(あんなまだまだ幼い女の子にからかわれたのか俺は…)

そう思うと少し悔しい。

次の修行…覚悟しとけよ…


76 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/10(金) 18:22:59.39 ID:bQ1VTJGW0
なうろうでぃんぐ…

(-ω-)


77 名前:SS速報VIPがお送りします [sage] 投稿日:2017/03/10(金) 18:24:17.35 ID:GyQ0gZ5ZO
むつごいって方言なのか
知らんかった


78 名前:SS速報VIPがお送りします [sage] 投稿日:2017/03/10(金) 19:04:30.39 ID:xhgOIQlVo
忍者は感度3000倍だからね


79 名前: ◆hs5MwVGbLE [saga] 投稿日:2017/03/11(土) 05:00:49.23 ID:aiWyufnc0
…………

妖狐姫「くぅ、くぅ…」

男「よく寝るなぁ…どれ…」

妖狐姫「くぅん…」

男「おお…ほっぺぷにぷにだな」

てんこ「姫様、失礼します」

男(わわっ…!)

膝の上の妖狐姫の寝顔に軽い悪戯をしているとてんこさんが襖を開けた。


80 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/11(土) 05:01:27.46 ID:aiWyufnc0
てんこ「ん?男殿、なんだその焦りようは」

男「い、いえ…」

てんこ「怪しいな…まあ今はそれどころではない」

男(怒られるところだった…)

てんこ「姫様、客人でございます」

男(客人…?)

男「おい妖狐姫〜。お客さんだって」

妖狐姫「んにゅ〜…何者じゃ?」

目を擦りながらあくびをする呑気な妖狐姫とは裏腹にてんこさんは真剣な面持ちで伝えた。

てんこ「…隣街の主様でございます」


81 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/11(土) 05:02:02.72 ID:aiWyufnc0
男(なんだって!?)

妖狐姫「なんじゃと?祝言は六日後じゃぞ…一体なんの要件じゃ」

てんこ「それがですね。どうも昨日送った文の内容に納得がいかなかったらしく…その婚約者の顔を一目見せろと…」

男(それもそうか)

俺と出会う前は見合いから逃げていたような子が、いきなり納得する男を連れてきたというのは確かに不自然な話だ。

宴前に一つ、証拠を見せろということだろう。


82 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/11(土) 05:02:44.93 ID:aiWyufnc0
妖狐姫「なんじゃ面倒くさい連中じゃのう…よい、上げよ」

てんこ「はっ…只今…」

てんこさんは一礼すると部屋を出た。

男「本当に大丈夫なのか?」

妖狐姫「別によかろう。嘘をついているわけではないのじゃ。連中が証拠を見せろというのなら見せるまで…そうじゃろう?」

男「すごい自信だな…俺はちょっと気まずいぞ」

妖狐姫「何を言う。連中が見たいのは座椅子、うにゅなのじゃぞ?うにゅが胸を張らんでどうする」

男「まあ…ちゃんと婚約者に見えるように頑張るよ…」

男(相手は主な上にくぅこ曰く俺よりも美形な野郎らしいし…そんなプライド高そうなやつが俺みたいなフツメン男に場所を取られてるって知ったら…何言われるか…)


83 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/11(土) 05:03:19.88 ID:aiWyufnc0
男(あれ?)

どんどん不安が募る中、俺はある一つの違和感に気がついた。

男「妖狐姫…お前いつまでここに乗ってるんだ?」

まさかこのまま客人を迎えるわけではあるまい。

妖狐姫「むぅ…」

妖狐姫は仕方ないなとため息をつくと渋々俺の隣に座った。


84 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/11(土) 05:04:07.82 ID:aiWyufnc0
てんこ「失礼します…こちらへどうぞ…」

てんこさんは二人の男を部屋へ案内すると一瞬こちらを向いて不安そうな顔をした。

男(しっかりしないと…)

てんこ「…茶を淹れてまいります」

てんこさんがもう一度部屋を出た後、ガッツリ濃い髭を生やした漢らしい色黒のおっさんと中性的な顔をした見た目くぅこくらいの歳の白髪美少年が座布団に座る。

男(あのおっさんの方…どっかで見たことある気が…)

どう見ても主の様な風格を持っているのはおっさんの方だが…美形っていうのか…あれ…。

男(いやくぅこがそういう趣味という線は…)

そこまで考えたところで天井から金属の気配がしたのでやめた。


85 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/11(土) 05:04:47.73 ID:aiWyufnc0
男(ない、よな…となると…)

「うん…?そちらの耳と尾を隠した妙な男は何者だ?初めて見る顔だが…」

美少年が目を細めて俺を見た。

「家来か何かか?」

男(まあそう見えますよねー…)

妖狐姫「しらこ様…こちらがわらわの婚約者、男でございます」

男(妖狐姫が様付け…やっぱり美少年の方が主だったか)


86 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/11(土) 05:05:24.89 ID:aiWyufnc0

ってか

しらこ「…む?」

男(ちっせぇぇぇぇ!妖狐姫程じゃないけど…こいつって確か妖狐姫が幼いのにつけこんでいろいろしてたんだよな!?)

男(なんだ?領地主ってのは小さい奴しかなれないのか?いやそんなことないよな!?)

しらこ「ふーん?男殿と言ったか…知っているとは思うが、ボクが隣街の領地主しらこだ」

しらこに続いて隣のおっさんも自己紹介を始めた。

シエン「あっしは我が主の家来、シエンと申す…」

圧倒的風格だ。

男「ど、どうも…」

ちゃんとした挨拶をしないといけないのは分かっていたがヒキニートゆえにできなかった。
恥ずかしい。

今まで怠惰な生活を送ってきた自分を全力で殴り飛ばしたい。


87 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/11(土) 05:06:10.74 ID:aiWyufnc0
てんこ「お茶でございます…」

お互いの自己紹介が終わったところでてんこさんがお茶を持ってきた。
恥ずかしい挨拶を彼女に聞かれなくてよかったと心底思う。

しらこ「時に男殿…何故耳と尾を隠す?ボクの前であるとはいえ、そこまで堅くならなくてもいいぞ」

てんこ「お、男殿…」

男「あ…それは…その…」

男(どうしたらいいんだ…)


88 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/11(土) 05:06:57.91 ID:aiWyufnc0
妖狐姫「しらこ様、こやつは異界の人間ですゆえ、狐耳と狐尾を持たぬのでございます」

男(それガッツリ言っていいの!?)

てんこ「姫様!?」

シエン「ん?…思い出しましたっ!!この男!異世界で姫君と一緒にいた者でございます!!」

男(あっ!俺も思い出したぞ!このおっさん…追いかけてきた連中の一人だ!)

しらこ「異界の…者…?それは、転移鳥居の先で見つけた男ということか?」

妖狐姫「左様でございます」


89 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/11(土) 05:07:41.24 ID:aiWyufnc0
しらこ「ふっ…」

しらこ「ぷっ…ははっ!」

しらこ「あっはっはっはっ!」

しらこ「あーはっはっはっ!」

しらこの高笑いが部屋中に大きく響いた。

しらこ「あー、いや失礼…異界の拾い物が婚約相手だったとは…おもしろい。実におもしろい冗談だ」

妖狐姫「冗談などではございませぬ」


90 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/11(土) 05:08:22.57 ID:aiWyufnc0
しらこ「…いい加減にしてもらいたいな」

男(顔つきが変わった…?)

しらこ「ボクはもう全て分かっているぞ」

しらこ「はっきり言おう。ボクは貴方との鳥居鬼ごっこにはもう飽き飽きしていたんだ」

しらこ「そしてそれは貴方も同じ、だからその冴えない男を拾ってきたのだろう?」

しらこ「何なんだその情けない男は?貴方と寄り添う男だというのに、気品を全く感じられない。そしてそのままでいいと思っている顔をしている」

男(う…)

しらこ「感じられないんだよ!貴方と対等、それ以上の関係であろうという気が!」

しらこ「見え見えの嘘は止して欲しいな。さっきからその男がこれだけ言っても何も言い返してこないのが何よりの証拠だ。本当に街のことを思っているなら、諦めてボクのものになったらどうだい?」


91 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/11(土) 05:09:11.50 ID:aiWyufnc0
てんこ「っ…」

男(くっ…)

返す言葉なんて無かった。
そうさ、本当は俺と妖狐姫が出会ったのは運命なんかじゃない…やっぱり偶然なんだ…

俺はお姫様と釣り合うような人間じゃない…
お姫様の横に寄り添っていいような人間じゃないんだ…

妖狐姫「何度も同じ事を言わせないでいただきたい。嘘でも冗談でもないと…」

しらこ「言うだけなら簡単さ!少なくとも今のボクの目にはその男は家来以下の存在にしか見えないよ。他に証拠はあるのかい?それを見に来たんだ!」


92 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/11(土) 05:10:02.93 ID:aiWyufnc0
妖狐姫「くぅっ…男!うにゅからも何とか言わんか!」

てんこ「男殿…」

男「あ、あああ…え、えと…その…」

心地よい夢から覚めた気分だった。

可愛い女の子に囲まれて、美味い飯を食わせてもらって、完全に浮かれていた。

急に突きつけられた現実に、俺の心は完全に折れていた。


93 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/11(土) 05:10:52.18 ID:aiWyufnc0
男「そっ…そうだよ…俺は…」

妖狐姫「ちぃっ!」

妖狐姫「男!!!!」

何を思ったのか、妖狐姫が急に声を張り上げて立ち上がった。

男「…なんだよ」

てんこ「姫様…?」

妖狐姫「しらこ様…そこでしっかりと見ていてください」

妖狐姫は俺の方を向くと両手で思いっきり俺の両頬を挟んだ。


94 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/11(土) 05:11:37.47 ID:aiWyufnc0
しらこ「…一体何を」

妖狐姫「男…」

男「妖狐姫?」

妖狐姫は俺の顔を真っ直ぐ見つめ、目を閉じると

妖狐姫「んむっ…」

男「んむ…!?」



静かに唇を重ねた。





95 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/11(土) 05:12:32.94 ID:aiWyufnc0

男(え…)

てんこ「ぇ…?」

一瞬、何が起こったのか理解できなかった。

妖狐姫「…んはっ」

妖狐姫「はしたないものを見せてしまって申し訳ない…ですが…」

妖狐姫「これでお分かり頂けましたか?少なくとも、わらわはこの者に愛情を抱いています」

しらこ「…ふーん、随分と体を張ったじゃないか」

しらこ「シエン!」

シエン「…はっ、はあ!」

しらこ「帰るぞ」

しらこは乱暴に襖を開けると後ろ姿のまま言った。

しらこ「まあ、今回は貴方の迫真の演技に免じて身を引こう。せいぜい次の言い訳でも考えておくことだな。思いつかないのならいつでも我が屋敷に嫁入りに来るといい…歓迎するよ」

妖狐姫「…てんこ、送って差し上げろ」

てんこ「はっ…はひっ!」

どたどたと露骨に不機嫌そうな足音を立てて出て行くしらこを、てんこさんが慌てて追っていた。


96 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/11(土) 05:13:20.51 ID:aiWyufnc0
男「…妖狐姫」

妖狐姫「なんじゃ」

頑張って、堪えていたのだろうか。
彼女の目には涙がたまっていた。

謝らないと…だって、俺が情けないばっかりに妖狐姫にあ、あんなことさせて…

男「ご、ごめん…その…嫌だったろ?俺と、その…」

妖狐姫「接吻のことか?」

男「…ああ」

妖狐姫「そのようなこと気にするでないわ!他にもっと謝るべきことがあるじゃろうが!」

妖狐姫はもう涙をこらえきれておらず、彼女の流した涙は畳のシミとなった。

でも俺は…他に何を謝ればいいのか分からずにいた。


97 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/11(土) 05:14:01.82 ID:aiWyufnc0
妖狐姫「…本当に何も悔しいと思わぬのか?わらわは…わらわは悔しくてたまらぬ」

妖狐姫「くぅ…あやつをうにゅに乗せてやればよかった。そうすればあやつも座椅子を認めたかもしれん…」

妖狐姫「あ、あのようなやつにうにゅを貸してやるわけがないがな!」

妖狐姫は溢れる涙を着物の裾で必死に拭った。

男「しょうがないんだ。俺はあのしらこが言ってたように、本当はしょうもない人間だよ」

妖狐姫「っ!」


98 名前:SS速報VIPがお送りします [saga] 投稿日:2017/03/11(土) 05:14:41.89 ID:aiWyufnc0
パチンッ…と

彼女の小さな手のひらが俺を思いっきり叩いた。

男「痛っ…」

妖狐姫「馬鹿者っ!」

妖狐姫「うにゅは…うにゅが思っているよりずっと素晴らしい人間じゃ。少なくともわらわにとってはそうなのじゃ」

もしかして彼女は、俺のために泣いてくれているのか?…俺なんかのために。

妖狐姫「頼む…」

妖狐姫は俺に強く抱きつくと俺の胸に顔を押し当てて言った。

妖狐姫「わらわの顔に泥を塗るなとはいわぬ…じゃが…うにゅは己をもっと重んじるべきじゃ…」

ここまでされても尚、俺はまだ妖狐姫の涙の意味を完全に理解できていないまま夜を迎えた。

祝言まで、あと六日。



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